Heisenberg: The Uncertainty Principle by Simon Stephens at Wyndham's Theatre.

観劇日:2017年10月14日15時

演出:Marianna Elliott*1

 

 サイモン・ステーヴンスを研究対象にしてしまったために、ともかく彼の関わる作品は余すところなく観ねばと公演情報を漁ったところ、今月ロンドンで3本あるでということがわかり、仕事しすぎ、とリサーチャーはぼやいている。Heisenbergはわりと大きなプロダクションなので12月までやっているのだけど、この先の予定がわからないし、観れるうちに観といた方がいいだろうと、ロンドン行きを決める。

(すごいどうでもいい話ですが、以前ある英文学の先生に、ステーヴンスに強く関心はあるけど、好きとか愛とかと言われるとなんか違うと思う、と話したら、愛なくしてどうして研究しようと思うのか!と驚かれたのですが、どうなんでしょうか。研究対象を愛してやまないタイプの人と、好きか嫌いかと研究したいかは別という人と二通りあるようで、私は間違いなく後者です。)(でも好きですよ、愛ありますよ、スティーヴンス。)

 さてタイトルからして、ハイゼンベルグですか不確定性原理ですか、という心構えをし、しかしそのテーマではすでにマイケル・フレインの『コペンハーゲン』という傑作が英演劇には存在し、それを挙げるまでもなく、自然科学や数学といった演劇/文学的モチーフから一見かけ離れたと思われていたような分野の知にインスピレーションを受けた作品はやまほどあり、そもそもさすがにこの21世紀にモチーフが量子力学ってのは大学受験から文系一筋だった私でさえ古くね?と思うわけですが、いざふたを開けてみればタイトル何一つ関係ねぇじゃんというロマンチックラブストーリーであった。ある意味、期待を盛大に裏切られた。

 中年女性と老年男性の出会いからパートナーになるまでを90分でやるもんで、プロットがかなりとっちらかっている印象。前半、妙に女性側がなれなれしく男性に接し(ツイッターに投げた感想では、ヤクきめてるんじゃないか、と書いてしまったのですが)それが受け入れられているのも妙な感じだし、その態度の理由が彼女が詐欺を働こうとしていたという秘密の暴露もメロドラマあるあるすぎてどうなんだ。そしてこのぶれぶれな二人の態度や関係を「不確定」と呼ぶなら、お前にとって「確定」されたものってなんだねと問いただしたくなる。

 悔しいのはステーヴンスの筆力で、台詞回しに関してはものすごく上手いものだから、やっぱりダイアログ聞いちゃうし、いい台詞だなぁとしんみりしちゃったりもするわけです。そもそも(私の認識では)彼は奇抜なアイデアやユニークなストーリーで魅せるというより、丁寧な台詞の言葉が魅力の作家なので、ベタでも実験的でもそれなりに見せる土台があるんだなと思う。

 Marienna ElliottとはThe Curious Incident of the Dog in the Night-time以来でしょか。わりと似ていて、削ぎ落した美術に照明の美しさでシーンの変化を魅せていく。場面を役者のダンスで接いでいくのはいいアイデアだと思ったけど、ダンス自体の質はあまり。というか、きっちり(戯曲にある言葉や感情を度外視して)コレオグラフすればいいのにと思う。

 一昨年アメリカで初演して、オフからブロードウェイへ進出し、そこからのウェストエンド公演なので、当然ながら英米ともにレビューの評判は上々。うーん、ロマンチックラブに振るならそれはそれで、もうちょっとやり方があるような気もするんだけど…(とりあえずタイトルとかさ)。

 

 

*1:公演情報は自分の関心のある部分だけメモとして書いているので人の参考にはたぶんあまりならないと思います。すみません。