Every Brilliant Thing by Duncan Macmillan with Jonny Donahoe at Orange Tree Theatre

観劇日:2017年10月14日19:30

演出:George Perrin

 

 二年前のエジンバラフェスティバルで情報を見かけたのが最初。脚本のダンカン・マクミランは『1984』の舞台版翻案*1が素晴らしく、この人の新作なら!とチケットを取ろうとしたらすでに全日完売。次の遭遇は今年の春、飛行機の機内上映でこの作品のニューヨーク公演(HBOのドキュメンタリーでした)の映像を発見し鑑賞。映像越しにもすごく良い作品で、公演情報を調べたらまだツアー中ということがわかる。さて渡英後まもなく、友人のツイッターからロンドン公演のリンクが流れてきて、これはいかねばと二年越しのリベンジ決行、それが今回の観劇となる。

 映像を見ていたので知っているのだけど、これはいわゆる観客参加型演劇だ。開場中、出演者のジョニー・ドナホー*2が観客ににこにこと話しかけながら紙片を配っている。作品本編で観客が読み上げるためのものなのだが、二年もツアーをやってきた成果であろう、多くの観客はどうやらその仕掛けを知って受け取っている風だった。

 何かのインタビューで、ドナホーの個人的なエピソードを交えた作品だと読んだ。ある男性の半生で、鬱病の母親が自殺未遂を繰り返してきたこと、そのことが彼の人生にどのような影響を与えてきたかを、(戯曲上は)ナレーターであるドナホーが語る。母親が初めて病院に運ばれた時から、彼は「素晴らしいこと」のリストを作り始める。そのリストの番号をドナホーが口にすると、対応する紙片を持った観客はそこに書かれている「素晴らしいこと」を読み上げるのだ。(「夜更かししてテレビを見ること(だったかな)」という紙を読み上げた人の言い方がえらいだらだらした感じで、笑ってしまった。)

 愛犬の安楽死に始まり、母親の入院と父親との会話、スクールカウンセラーとのやりとり。大学図書館で恋に落ちた女性と結婚し、別れ、リストの数は限界を迎え、自分自身もうつ状態に陥り、ついには母親の死に面し、その後また新たに「素晴らしいこと」がリストに加えられるまで、という濃密な時間の流れを、一時間という短い時間にもかかわらず、ゆったりと穏やかに作り上げる。

 ドナホー以外の登場人物は観客が引き受ける。「こうして(こう言って)ください」というお願いがある場合もあれば、観客のアドリブに任される場合もある。今回の私的MVPは、正直オフウエストエンドではあまり見かけないゴスともパンクともモードともつかぬファッションのお兄さんで、開場時から客席で異彩を放っており、しっかり最前列に座り、案の定獣医役で捕まっていた。彼の真っ黒のジャケットが愛犬役になり、それを抱えたドナホー少年の前で安楽死の注射を打たねばならんのだが、とっさに「あそこ!」と声を上げ、視線をそらしたすきに注射を打つというファインプレーを決めていた。

 リチャード・ガッドのパフォーマンスの記事でも書いたけれど、この数年イギリスではメンタルヘルスを扱った舞台作品は目立って増えている。私個人の感覚で言えば、メンタルヘルス自体の理解は、日本は言わずもがな欧米諸国でもイギリスはかなり進んでいると思うのだけれど、それでも近年になって多くの作品が発表されることの意味を考えてしまう。(ただ、ガッドの場合は男性間性暴力も中心テーマなので、この作品と簡単に比較は出来ないとは思う。)社会の認知度と作品化することはもちろん別のレベルのことではあるけど、一方でアーティストの精神疾患のエピソードがことさらフューチャーされつつ、他方病気自体は作品テーマにはならず、まして精神疾患の理解が進んでいるとは思えない日本の状況を振り返ると、デワノカミにはなりたくないけど、いろいろ思うところはある。

 

*1:来年かな?小川絵梨子さん演出で東京公演がありますね。

*2:調べてて知ったんですが、彼キャリアとしてはコメディアンなんですね。スタンダップのスキルが巧みに使われています。