Time Critical by Stan's Cafe at mac

観劇日:11月7日20時

 

 バーミンガムを拠点とするデヴァイジングシアターのカンパニー、Stan's Cafe*1。名前はちょくちょく聞くものの観る機会に恵まれなかった。実際 British Theatre Companies (bloomsbury, 2015) の紹介項でも、批評家の評価は高いけどあんまり大手紙に言及されてもいない、というような解説がされていたりするので、売れる一線を微妙に外しているのだろうか…と余計なお世話なことを考えつつ劇場へ。

 今作は、昨年のカンパニー結成25周年記念に作られた作品の再演。パフォーマーは二人、チェス盤とチェスクロックを挟んで向かい合い、一人は1991年から2017年までの世界史を、もう一人は同じ年代の個人史*2を語る。持ち時間は26分間*3

 方やソ連崩壊からユーゴスラビア紛争、ニュー・レイバーから911、ロンドン同時テロと主に欧米の歴史を語りまくり、方や大学卒業後カンパニーメンバーとの出会いから、作品製作、ツアー公演の思い出、劇団内外の人間関係のごたつきを語りまくる。エピソードの区切り良くクロックを止めたり、相手の語り(なぜかO・J・シンプソンの法廷での物まねをやりたがるとか)のうざさに勝手にクロックを止めたり、特に語ることがないので相手にターンを渡したりと、ゲームかスポーツかというようにスピーディに進行していく。また、おそらくカンパニーの結成記念作品だからだろう、個人史パートの節目にいくつかの過去作品の一部のパフォーマンスがある。2017年までたどり着けばゴールだが、私の観た回では2016年でタイムアップ。最後はものすっごい早口だった。

 大文字の歴史と個人史の対比だよねと言えばまぁそれまでではあるのだけど、当然ながら前者は後者を気にも留めないだろうが、個々人は「あの時何があったか」をよく覚えている。ツアーで訪れた地域と歴史的な事件とをうまくかみ合わせるように構成されていて、その駆け引きめいた両者のやりとりは結構スリリングだ。(チェコ、スロバキアの連邦解消当時に周辺諸国へツアーに行ったとき、旧東ドイツのボーダーで「私たち、ヨーロッパの『ニグロ』ですから」と言われて凍った、というエピソードが今回一番記憶に残っている…。)

 ただ、アイデアは好きなんだけど、いまいち乗れないなぁというのが観終わっての感想で、たぶんその感覚は、評価は悪くないのに大ヒットとはいかない、というところと重なってるような気がする。例えばForced Entertainment なり Complicite なりが実験性や革新性、ビジュアルや音響、言葉の美しさに注力している部分を、彼らはおそらくエンターテイメント性にその力を注いでいる。もちろん、Forced Entartaiment らがエンタメを重視してないわけでも、Stan's Cafeが実験性や美学的側面に全く欠けているわけでもない。RPGでいうところの「アビリティポイント」をどこに振る?というやつで、攻撃力にポイント入れ過ぎて、素早さとかが足りなくなるみたいな、ある種のバランス感覚のようなものだと思う。(あたりまえだが、攻撃力一点突破も持ち味としてはありである。)

 あとこれは再演最初の公演(かつ世界史を語る方のパフォーマーが変更になっている)のせいか、単純にミスが多かった。26分間というルール設定で、クロックを押すタイミングが重要なのに、ターンの切り替えがうまくいってないところがちょいちょい。(段取りこんがらがって即興っぽくなるのは、ゲーム的なものとして楽しんだけれど。)でも、次回作も観たいです。あと、バーミンガムといえば?で答えられるものが一つ増えたし*4

 

追記:ふと思い出したので。二人のパフォーマー、今回は世界史を語る方が若い女性(91年時点で3歳という台詞があったのでたぶん30そこそこ)、個人史を語る劇団創立メンバーは男性(91年に修士修了という台詞があったので若く見積もっても40台半ばか後半)。で、90年代後半の携帯電話の普及の話で、両者が同じ時期に初めて自分の携帯を持ったということがわかり、男性の方が二人の年齢差に、うわぁ、という反応をするというシーンがあったのでした。こういうあたりも、社会の変化と個人の経験が絡まるポイントだなぁと、面白かった。

 

*1:自分で間違えたので書いておきます。カンパニー名の発音は 'Stan's CAFF' 。労働者が集うイギリス式「カフェ」がモチーフで、'café' のような繊細さや見栄はありませんよ、とのこと。こちらもBritish Theatre Company参照。

*2:正確にはパフォーマー(初期メンバー)の視点から語られる劇団史です。

*3:これ、切り悪いなと思ったら、初演時は25分間でした。たぶん、再演で1年分語ることが増えたので、1分伸ばしたんだと思う。

*4:留学先が決まってもなお、バーミンガム名物的なものを何一つ知らず、マンチェスターならサッカーもロックバンドもいっぱいあるじゃんいいじゃん、と思っていました、すみません。