Minefield by Lora Airias at Royal Court Theatre (downstairs)

観劇日:2017年11月11日19時半

 

 アルゼンチンの作家Lora Ariasが手掛けた、フォークランド戦争に従軍していたアルゼンチン、イギリス両国の退役軍人6名によるパフォーマンス作品。作品の名義はAriasになっているけど、スクリプトには、出演する六人の物語に基づく、とあるので、ドキュメンタリー演劇と観て良いのかなと思う。

 三人の元英国兵(うち一人はグルカ兵*1)と三人の元アルゼンチン兵が、軍への入隊から開戦、戦時中、そして戦後から現在に至るまでのそれぞれの経験を語っていく。並行して、今作のオーディションや稽古場での出来事を通じ、自身の(多くの場合トラウマ的な)経験に改めて向き合う過程も語られる。イギリスキャストは英語で、アルゼンチンキャストはスペイン語で語り、字幕には両言語(英語の語りではスペイン語、またはその逆)が表示される。

 もちろん、彼らの経験それ自体が非常に重くて(良いか悪いかはともかく)退屈することのないストーリーばかりなのだけれど、見せ方も工夫されている。例えば、戦時中までははっきりとイギリス、アルゼンチンキャストの間に境界(主には舞台上の待機スペースで)を引き、両者の語りが混ざらないよう注意深く構成されているが、戦後、特にPTSDに関わる語りなどは逆に両者の語りがオーバーラップするような仕掛けが施されている。アルゼンチンキャストの一人がビートルズのトリビュートバンドのドラマーだった、というところから楽曲の演奏シーンも多く、ビートルズが両者の文化的な共通体験であるのも印象深かった。(このドラマーの人は、戦艦ベルグラノの生存者でその経験を語るのだけど、その時のドラムのパフォーマンスが今作一番良いシーンだったと個人的には思う。)

 35年という時間が色んな意味で「絶妙」だったように思えた。戦時中20代だった彼らが60歳に差し掛かろうかという頃、負の感情が消えることは決してないのだけれど、軍人として生きた時間よりも各々のセカンドキャリアの人生の方が長くなっていて、戦争の記憶は徐々に過去のものになりつつもある。作品全体でも、戦時中の経験自体の語りよりも、戦後の出来事やトラウマとの葛藤、あるいは稽古期間を通じて改めて記憶や戦争体験に向き合うことについての語りの方が比重が大きかった。敵対していた者同士(そして現実に当時戦場で出会っていたかもしれない者同士)互いにすべて理解しあえることはないのかもしれないけれど、怒りや憎しみ以外の感情が舞台の上にあればこの作品は成功だと言えるのだろうし、実際そういった感情の動きは生まれていたと思う。

 私の観劇日はちょうど Remembrance dayで、その日だけだったのかわからないけど、イギリスキャストでポピーを衣装に着けている人がいた。私はこのポピーや戦没者追悼日にイギリスの人が思うことをまだよくわからない、全然(それはきっと靖国参拝とも終戦記念日とも自衛隊追悼式とも違うのだろう)。劇場に行く前、買い物をしたお店の店員さんが、前に並んでいたお客さんに「旧硬貨(先月1ポンド硬貨が切り替わりました)はもう買い物に使えないんですよ、ポピーのチャリティとかで使ってください」と言っていて、そういうものかぁとぼんやり思ったことと、あの出演者のポピーは妙に結びついている。

 あとこれLIFTのプログラムの一部で、欧州ツアーも控えている(もう終わった?)ようですが、こういう当事者出演というか自らが語るパフォーマンス系ってバービカンとかBACが得意そうだなという印象があり、ロイヤル・コートでの上演は作品傾向的にちょっと異色な気もします、が、どうなんでしょう。

 

追記:この公演は見切れの立見席で観ているので、上手半分くらいがほぼ見えないという状態だったので、演出的に大事なところを見落としている可能性があります。台詞は問題なく聞こえて、字幕も見えました。(Royal Court Downstairsは(演目にもよるようですが)当日券のみの10ペンスの立ち見席があります。豪快に見切れてたけど、10ペンスは強い。)

 

 

 

*1:この人がネパールの歌を歌うシーン(ここは字幕なし)はアジア系の表象としては微妙な気がしたのですが、歴史の知識に私は全く弱いのでものすごく的を外した感想かもしれないです。ただ、アジア系の人が出た時に自国の歌を歌うとか踊りを踊るというのはもうパターンなので、英語しゃべれる人なんだから、英語-スペイン語の領域に入っていてもいいのではとは思った。入りたくない、という向きがありえるのもわかりつつ。