How to Win Against History by Seiriol Davies at Young Vic Theatre

観劇日:2017年12月20日14時45分

 

 19世紀末に生きた「変わり者」の貴族ヘンリー・パジェットの生涯を語るコメディミュージカル。男性三人(くっそ歌上手い)のパフォーマンスで、低予算的ぽく、そのわりに派手派手しい衣装や小道具、美術はわりとキャンプな感じ。

 そもそも、パジェット卿はドラァグ的なところのあった人物らしく、普段から女装して暮らし、見合い結婚するものの妻との関係は上手くいかず離縁。さらには無類のエンターテイメント好きで敷地内の教会を劇場に改装し、自作の上演に財産をぶっこむも、芸術家としても興行主としても才能はなかったようで全くの赤字という始末。パジェットは29歳で病死してしまうのだけれど、その死後、親類によって彼に関するあらゆる記録は燃やされたとされる。歴史的資料が無くなってしまった実在の人物の生涯を、舞台で描き出すにはどうすればよいのか、そして歴史から抹消されてしまった人物がその存在を今に取り戻すためには、つまり「歴史に勝つ」にはどうすれば良いのか、チープで華々しいステージの背景テーマが興味深い。

 当然ながら、パジェットに関する資料がとても限られているため、知りえる史実を時系列に並べ、その出来事を歌にしてしまうという方法で彼の存在を作り上げていく。構成だけで言えば事実の羅列であり、その意味では今作はあまり「ドラマチック」ではない。では、このタイトルの意味は何だろうと思っていたら、エンディングに歌われる'I sort of won'という、観客の発想の転換を促すシニカルで切ない曲に、それが込められていた。

 「私の存在が歴史から燃え去ったことを『残念だ』とあなたが本当に考えるのなら、私はある意味で歴史に勝ったのだ」

 この逆説的なフレーズを成立させるために、史実を補完するあるいはフィクショナルに描き直すということに徹底して禁欲的で、抑制していた。物語の単調さと歌の華やかさ

の妙なギャップが、ラストシーンで観客を鋭く刺激する。この転換は痛快で、同時にパジェットの生涯を改めて顧みる思いを残した終幕は、タイトルに適うものだった。

 物足りなさを言うとすれば、シークエンスのつながりは結構ぶつ切り感があり、もうちょっとスムースにならんかったかなぁと。とはいえ客席は満席、客層も老若男女を問わず、親子連れも多くて、こういう作品が広く観られるのはいいなぁと思った。