Oslo by J.T. Rogers at Harold Pinter Theatre

観劇日:2017年12月21日14時

演出:Bartlet Sher

 

 2016年ニューヨーク初演、2017年にトニー賞ベストプレイ賞を受賞している。UK公演は、今秋のナショナルシアターでの初演の後、ウェストエンドへトランスファー。

 イスラエル、パレスチナ間の自治協定である1993年のオスロ合意の舞台裏を描くドラマ。ノルウェー政府の外交官夫妻の独断に端を発する完全極秘の会議が、度重なる交渉を経てワシントンでの合意にいたるまでを、意外にもコミカルに描き出す。

 知人から先に感想を聞いていて「三谷幸喜みたいだった」というコメントに、え?オスロ合意でしょ、しかもこの状況下で*1、と思ったのだけれど、確かに三谷風。一つは、政治的に深刻なテーマをライトに描く手つきで、これは『笑いの大学』ぽい感じ。もう一つは、一官僚の提案が、イスラエル、パレスチナの政府関係者はもちろんのこと、ノルウェー、アメリカの高官や外相、ひいては各国を巻き込んでの一大事となっていくプロセス。当然ながら、はじめは両国とも交渉には態度が固く合意にほど遠く、しかし徐々に歩み寄り妥協点を見つけていく。全員がばらばらの方向を向いているところから大きな目的へ進み見事達成する感じは『ラヂオの時間』だなぁと思った。実際これほどスムーズに事が進んだとはもちろん思わないけれど(ラストシーンでは関係者の没年と、イスラエル、パレスチナ間で協定締結後に起こった衝突や紛争が時系列に語られる)歴史的な事件をドラマチックにかつエンターテイメントとしても仕立てあげたクオリティは目を見張るものがある。

 コメディタッチに出来た理由の一つは、主人公をノルウェーの、歴史的には無名の官僚にした点だろうと思う*2。完全な秘密会議のため、第三者であるノルウェー政府の関係者は会議の場には立ち入り禁止。彼らはあくまでも、会議のための場所と両者の連絡をセッティングする以上のことはできない。ノルウェーの官僚たちの、ある種のなにも出来なさが、実際の会議との距離をとる良い仕掛けになっていたと思う。

 逆に言えば、イスラエル、パレスチナ間の交渉の様子は想像に頼ることしかできないわけで、厳しい会議だったことは承知の上で、両政府の外交官によるハートウォーミングなやりとりが描かれたりもする。 リアルじゃないね、と言えばそれまでなのだけど、その後、事実上この協定が無になってしまう今の悲惨な状況を思い起こすと、せめてドラマの中くらい、協定締結の時くらい、多少なり希望があってもいいのかなと思う。

  人種表象どうするねんというのはまぁあるんですが(今作に限らず海外作品の翻訳上演に常につきまとう問題ですが)、全体的な雰囲気や物語の展開自体は、日本でもウェルメイド好きなお客さんに好まれるんじゃないかなとも思います。

 

 

*1:本作初演は去年なのだけど、ちょうどこの作品のウェストエンド公演時、トランプ政権がエルサレムをイスラエルの首都と認めるという声明を出してめちゃくちゃ混乱していたのです。

*2:今作の主人公・語り手となるMona、Terje夫妻は実在の人だそうで、歴史に詳しい人だとモデルと比べて楽しめるのかもしれません。私が聞いたことあるのはせいぜいホルスト外相くらいで、そしてそのホルストさんは、作中では会議のセッティングを事後に知らされてパニック(外相まで話が上がってきたのは交渉が始まってそこそこ経った後)という感じで描かれておりました。