Julius Caesar by William Shakespeare at the Bridge Theatre

観劇日:3月18日15時(雪)

演出:Nicholas Hytner

席種:モブ

主要キャスト:Ben Whishaw (Brutus),  Michelle Fairley (Cassius), David Calder (Caesar), David Morrissey (Antony)

 

 ブリッジシアターこけら落としからの二作目は、シェイクスピアのローマ史劇を現代に大きくアップデート、主要キャストにはベン・ウィショー始め話題の俳優を迎え話題盛りだくさんの作品。「モブ席」と呼ばれている一番安いスタンディングシートがいわゆる観客参加エリアになっており、スタンディングの観客はローマ市民としてシーザー暗殺を目撃したり*1、演説の聴衆になったりする、という演出も見どころ。

 シェイクスピア作品の鑑賞経験がそれほど多いわけではないので、テキストの編集が翻案に近いレベルなのかどうかが私は判断しかねるのだけれど*2演出面で言えばかなり大胆に現代に置き換えていた。特に、シーザー暗殺後のアンソニー、オクタヴィアス陣営とブルータス、キャシアス陣営の内戦突入の流れは、アラブの春以降の中東情勢を露骨に反映させている。もともと(史実に基づくと言えばそれまでだけども)ハッピーエンドとは言い難い作品とはいえ、結構救いようのない解釈だなというのが正直なところ。

 ブルータスとアントニーは逆のキャスティングの方が、という気がした。あからさまにこのブルータスはクーデターの類とはかかわりを避けそうな人物造形で、自らリーダーシップをとるタイプには見えない。アンソニーも、冒頭のロックバンド引き連れてるようなキャンペーンの方が性に合っている風で、葬列での演説のギャップがわかりやすい。。そもそもブルータス鳩派とアンソニー鷹派の対立が、ベン・ウィショー、ディヴィッド・モリッシーでは見たまますぎて、そりゃまぁオチはみんな知ってるけどもそれにしたってブルータス流され過ぎだよ…アンソニー脳筋だよ…*3という感が否めない。俳優の(特にヴィジュアル面の)イメージをそのままストーリー展開に使っていて、逆に見せ場や葛藤のインパクトが弱まっているように感じた。配役逆にしたところでそれはそれでステレオタイプな政治家像にはなるだろうけど、多少はギャップが欲しい。

 ただ、キャスティング全体はとても面白い。古典作品で、ジェンダー、人種を問わないキャスティングはもはや珍しくはないけれど、すごくスマートにそうした属性を使っている(そして政治家のキャラクターだけで言えば半数近くが女性になる)。キャシアスが女性(Michelle Fairley)だったのはすごくはまってて、というかはまりすぎててむしろ彼女を次のリーダーに、という頼もしさなほどで、それでいてブルータスとのロマンスにもっていかないところが気持ちいい。*4シーザーの妻がアジア系なのも、蝶々夫人的オリエンタリズムを逆手に取っていて面白かった。

 さてモブ席ですが、意外と動きの指示が多くて(転換時に俳優や美術の出入りのための道を開けないといけない)実はシーン頭に全く別の方向を向いてて台詞を聞き逃すこともしばしば。とはいえ指示はスマートで、サクラとして観客に紛れているスタッフが「シーザーさん通るのでどいてくださーい」とか「発砲だ!しゃがんで!」とかその場の雰囲気に合わせた言葉で誘導してくれる。結構驚いたのが、主に舞台は昇降で転換をするのだけど、いくらスタッフがガードに立つとはいえ素人の足元から1メートルもない位置で舞台床を動かしていたこと。プロでも事故が多い舞台機構だと思うので、これを演出に取り入れるのは英断だなぁと思った。その他、演出面ではフラッグ持ったり、舞台を丸ごと覆う横断幕を広げたりとかやらされる。*5あと、キャンペーンの場面では声援がSEで入っているのだが、音響効果で周囲からどこともなく聞こえてくるようになってて、それはちょっと気味の悪い没入感があった。誰も声を出していないかもしれないのに(実際の観客でワーワー声上げてた人はそんなに多くはないと思う)ノリの良い雰囲気に見えちゃってるかもしれない、というのはいくら自分が冷静だと思っていても、その場にいると空気を破るすべがない。それでも基本的にはアトラクション的な楽しさがメインで、ガチの没入はほぼ感じず。普通の観客席からはどう見えてたんだろうというのは気になるところ。

 ブリッジ・シアターは今回初来場。ロンドンブリッジの真横で、こんなところに土地あったんだ、と思った。カフェレストランエリアとホワイエが合体して、メインエントランスから劇場入り口まで広く空間がとられているのだけど、あまりイギリスの劇場では見ない造りのような気がする。日本だと(キャパや劇場数は全然違うんですが)東京芸術劇場の一階みたいな感じかも。ブリッジシアターのプログラムとしては、本作の後、中規模作品が二作続き、夏にアラン・ベネット、秋にマーティン・マクドナーの新作が控えています。すげぇな。

*1:アップしてから思ったんですけど(追記)目撃されてたら暗殺ではないというか、わりと白昼堂々殺しに行ってる演出になってました。

*2:聞き取れる範囲ではかなり現代語になっていたような。あと上演時間が休憩なし2時間だったのでわりとカットもあるはず。

*3:ある意味正しく『アンソニーとクレオパトラ』に続きそうではある。

*4:これ、今男性同士だと高確率でブロマンス演出入ると思う。

*5:私はシーザーのお葬式で遺影を持たされ、いやー悲しいっすねーと掲げていたら、ブルータスの演説の佳境でブルータス陣営のモブ(のサクラスタッフ)に遺影を奪われ、ブルータス陣営のフライヤーを振るよう指示されました。もし私がシーザー、アンソニー支持者だったらこの場で喧嘩だぞ、と思った。