Everybody's Talking About Jamie by Tom Macrae and Dan Gillespie Sells at Apollo Theatre

観劇日:2017年12月27日14時半開演

 

 2017年2月にシェフィールドはCrucibl Theatre製作で発表されたオリジナルミュージカルで、初演の高い評判を受けてウェストエンドへトランスファーとなりました。12月から翌春までのロングランが決定しています。(もっと延びたらいいなー。)

 中学校卒業を控えた16歳のジェイミー*1は、将来ドラァグクイーンのパフォーマーになることを夢見ている。学校の進路指導でこそ言い出せないものの、母親や親友のプリティには夢を応援してもらっているような、理想と現実のはざまにいる思春期の少年。誕生日に母親から真っ赤なピンヒールを贈られたことに背中を押され、町のブティックへドレスを見に行くと、その店のオーナー、ヒューゴは往年のドラァグクイーン!とんとん拍子にクラブでのステージデビューの話が決まっていく。

 クラブでのパフォーマンスにはクラスメイトがみな観に来て、ショーの翌日は学校がその話題で持ち切り。ジェイミーも自信をつけて、卒業前のプロムでのステージ構想を抱くようになる。ところがその計画が教員に知られるや否や、学校側は「プロムは生徒全員のためのパーティの場であって、ジェイミー一人が『乗っ取る』ようなことをするのは認められない」「プロムとはいえ、学校には『適切な』恰好で来るように」とくぎを刺す。同時に、別居中ながら陰で応援してくれていると思っていた父親が、以前からジェイミー達とは縁を切りたいと考えていたこと、母親はそれを知りながら父親は愛情深いと偽っていたことがわかり、ジェイミーは自分は「醜い」とその存在を責めてしまう。プリティの励ましや母親との和解を経て、パフォーマンスはしなくともありのままの自分でプロムに出ようと決意したジェイミーは、真っ白なワンピースで会場に赴く。

 これは実話がもとになっていて、モデルとなったジェイミーを取り上げたドキュメンタリーが数年前にBBCで作られている*2。というか、このドキュメンタリーがミュージカル製作の発端。実際には、クラスメイトの協力も厚くプロムでのパフォーマンスが叶ったそうなのだけど、ミュージカルでは落ち着いたエンディングで対照的。

 さて、物語の構成的に、次世代の『ビリー・エリオット』とまで評されている今作、個人的にはマイノリティの物語としてはビリーよりもずっとアップデートされてると思う。特徴的なのは差別の描き方。ジェイミーはオープンリーゲイで、クラスメイトとも(彼を変わり者と見るものの)楽しく学校生活を送り、家族は最大の理解者(これ、お母さんはレズビアンではないかという描写が、明示的ではないものの、結構あります)。唯一、攻撃的な侮辱を浴びせてくるディーンがいるが、ジェイミーは「華麗に」その言葉を受け流す。そしてディーンも近寄りがたい存在としてまたクラスから浮いてる存在でもある。

 ただ、マイクロアグレッシブな差別は常にジェイミーを取り巻いている(割と前半に歌われるThe Wall in My Head はこのあたりの問題も描いています)。プロムに関する学校の対応はもちろん、ジェイミーに時に好奇の目を向けるクラスメイト(「お調子者」な彼の姿をみんながスマホで撮る場面がいくつか出てくる)、ディーンの乱暴な物言いに乗ることはないけど反論もしない周囲。まともに応じるのは母親やプリティ、ヒューゴだけで、ジェイミーは無関心や「問題を起こすな」という空気に圧迫されている。*3

 ジェイミーの明るさは、こういう小さな積み重なる攻撃に対抗するためのものでもあるのだろう。ラストシーンを実話と変えているのは、彼がプロムの主役となって底抜けに明るいまま終わるのではなく、彼が明るくなれないときも、シャイで落ち着いた姿でも大丈夫な場所に学校や社会が変わっていけばいいね、という期待を込めたものだと思う。

 Work of Artという曲が、展開も含めすごく印象深い。ドラァグクイーンデビューを控え、学校のトイレでプリティにメイクを教わっていたところを教師に見つかり、プリティがとっさに「美術の授業のためで」と言い訳をする。「芸術」ならば堂々としなさいよ、と教師はジェイミーを顔も洗わせずトイレから引きずり出す。失敗したメイクのまま廊下を歩くジェイミーにすれ違う生徒たちスマホを向けるが、ジェイミーは臆することなく自分こそ「パーフェクトな芸術作品」だと歌い上げる。かっこよくて、切なくて、強くて、繊細で、色んな感情がこみ上げるシーンだった。

  舞台となるのもモデルのジェイミーが暮らしていたのもイングランド北部のシェフィールドという町である。ドキュメンタリーを見た友人によると、学校の人種構成は白人がマジョリティだったそうだが、作中のジェイミーのクラスメイトの人種は様々で、親友プリティはムスリムの女の子。こういう部分の変更とか工夫は、もはや思い切ってというものでもないのだろうけど、観ていると楽しくなる。

 

*1:イギリスの教育制度は結構ややこしいので、正確には義務教育修了年です。またジェイミーがどういう種類の学校に通っているのか明らかではないのですが、衣装に関する制服の指定は(一般に制服がある学校は私立校でレベルが高い)あくまで物語の展開に関わるもので、舞台となる学校の生徒が裕福で頭がいいことを必ずしも意味しない、と演出ノートにあります。

*2:現実のジェイミー君は今作の10倍ぐらい出たがりのようで、プロムの案が出てきた時点で、テレビ局各社に自らドキュメンタリー製作の売り込みをしたんだそうです。すげぇ。

*3:特にプロムの件を初め、学校や教師の対応は、私これめっちゃ知ってるやつやで…ってなりました。一見PCや平等に配慮してるっぽい排除ってほんとにきついですね…。