五日目

 ようやく諸々の手続きがひと段落してきたころ、少し嫌なことがあって、「あの辛さ」を久々に思い出した。

 ノンネイティブの日本人として欧米の人と接するハードルは、私にとってすごく高い。

 今までイギリス(ないし欧州)に来た時にも程度の差はあれ当然感じていたことで、もちろん前回留学時の秋ごろなどはこの苦悩の真っただ中にいたわけなのだが。とはいえ、初留学ショックではいろんな辛さとごっちゃになっていたり、短期の滞在では、そんなもんか、と流してしまっていたりで、案外忘れてしまうものなのだなぁとぼんやりと思う。だからこそ、良くも悪くも怯え構えることなく新歓ウィークを過ごしていたわけだけれど。

 何があったかの仔細は書くつもりはないが、私の英語力だったり人種や性別だったり、あるいは性格や態度だったりが原因なのだろうし、相手もまた何かしらの問題を抱えていたのだろう。差別というほどのことではないのだろうが、何も感じなかったかといえばうそになる。たまたまかもしれない。だが、この辛さには特有の痛みがある。どうすることもできないので、ひとまず固く誓うのは、自分が帰国した時に同じことは繰り返さないということか。

 こんなの当たり前じゃん、みんな辛いよね、あるある、と言ってしまえばそれまでのことなのだけど、つらい時はつらいのだ。

 ネガティブなことばかり書いているのもどうかと思うが(さすがにまだ芝居や美術館に行ったりする余裕はない…)それも日記なのだし、今この時点でこう感じているということは書き残しておこうと思う。数か月先か一年先かの自分がこれを読んで、恥ずかしくなって記事を消していてくれたらいいと思う。

着きました

 そもそも。学部時代に一年留学しているし、その後もイギリス含め何度も海外に行っているのだから多少のことにはさすがに動じないだろう、と思ってはいて、実際出発前も留学鬱、引っ越し鬱の気配はなかったのだから、ちょっと余裕かましていたことは否定はしないけれど、とはいえ渡英の数日前に「新寮の建設が終わらないので入居できない部屋があるかも、チェックインまでわからないんだけど、もし入れなかったら仮住まいを用意しているからしばらくそっちで過ごしてね、お金はもちろん払うよ!」なるメールが寮から届いたときは、えぇぇぇ、と声が出た。(なんのフォローにもならないが、今年度から大学が新しく契約した民営の学生寮なので、新しもんトラブルというやつだと思いたい。)

 プラスチックのボードにでかでかと'Reception'と書かれた看板のあるプレハブで受付を済ませ、私の部屋は無事入居できるということで案内されると、私の入る棟の隣の建物は絶賛工事中、作業中のおっちゃんがポーターも兼ねているほどで、そんなわけでランドリーもまだ、コミュニティスペースもまだ、水道水はしばらく飲用できず、そして私の部屋はトイレが壊れていた(直りました)。受付を待つ間親しくなった香港からの留学生ムーンと工事中の現場写真を撮りまくる。

 そのままムーンと、フロアが同じだった北京からの留学生二人と、大学へ手続きに向かう。BRP(生体認証の入った滞在許可証、これがいわゆるビザの証明を兼ねている)の受取に向かうと要予約だと言われ、その場で予約手続きをしようとすると受付時間を知らせるメールが行くからそれまで待てと言われ、では学生IDを受け取ろうとするとBRPがないと発行できないと言われ、じゃあいつメール来るんだと聞けば遅くとも金曜日には来ると言われ、公的書類の発行は全く出来ないのかと途方に暮れていると、今受付空いてるから予約なしでも手続きするよと言われ、だめだと言われ、やっぱりOKと言われ、ということを数か所のデスクを歩き回ってやりとりし、ようやく手に入れましたBRP。これで銀行とGPの登録に行ける。

 このあと、ベッドやシャワールームやらの必需品を買いに行く、というのが続くのだが、ここまで書いていてもうしんどい。みな口をそろえて、これがイギリスだねー、と言っていたけれど、いややっぱだめじゃねいくらイギリスでも、と思いながらようやくビールをあおっている。今日はスーパーで買ってきたのでがまんしているが、実は寮のエントランス(に相当するはずの未舗装のエリア)から徒歩10秒にパブがある。どう考えても素晴らしくダメになりそうな立地だが、近々行ってみる。

 とりあえず住むべきところに住めたのだから良しとしようと思ってはみるものの、夕方から咳が止まらず、どうかんがえても表の工事の埃が原因だろうともうあきらめている。長いというか短いというか、忙しい一日だった。