Edinburgh Festival Fringe & Edinburgh International Festival 2022

 3年ぶりのエジンバラフェスティバル、8月15日から21日のまるまる一週間行ってきました。なにせ2年も開くと自分の勘もいろいろ鈍っていて、一日の自分の気力体力とエジンバラの街の勾配とはしご観劇の適切なペースはどんなもんだったかね…?とふわっとしたまま予定を組んでいたり、フェスティバル側もブランクに加えてコロナ対策でわりと変化があったりしていて、良くも悪くもリハビリ期間ですよというのが今年のフェスティバル全体の印象だったかも。例えばEチケットへの切り替えだったり、ボランティアやパートタイムのスタッフのノウハウが途切れてしまった感じとか(開演時間押しのトラブルは多かった)来年以降は改善を期待したいってところは多いです。
 あと、演劇系はレビューの数が極端に減ったのが観劇の上ではかなり痛い。大手紙の掲載本数もだいぶ減っているし(派遣されてる人数が少ないように思う)、特にアマチュアのレビュー媒体が今年はほとんど動いてないように感じます。参加作品が減ったとはいえ三千作以上もの参加作品がある中から選ばなくてはならず、誰かの面白いという感想はそれだけで貴重。結果的に、有名批評家のレビューを追うような形で演目選びをしてしまって、外れは少ないけど安パイだなぁというチョイスに落ち着いたような。観客にしても作品数にしても、全体的な参加者数は3年前の70%くらいではという体感で、それは例えば街中のポスターに張り出されるレビューの星の数の少なさに端的に現れていたと思います。正直盛り上がりの点では元通りとは言えないし、とはいえかねてより指摘されていた夏の観光客多すぎ問題や地域や環境への負荷を思うと、元通りになっていくのが良いのかもわかりません。
 9月頭に、イナムラさん(@whiteanklesocks)、原田さん(@hrdmsy)、小畑さん(@obatwit)というフリンジ参戦組でスペースをやったのですが、開催に当たってそれなりの額の助成金がおりているのにフェスティバル環境の改善にはそのお金があまり使われてないという話を聞いたりして、それもまたなんだかなーと思ったりも。色んな事を見直す時期に差し掛かってるんだなといろいろ考えてしまいます。
 観劇の感想は毎回簡単にツイッターに上げており、以下はそのまとめです。自分で読み返して分かりにくい部分はアスタリスク*で補足をつけています。
 

Atsuko Okatsuka: The Intruder @Pleasance Courtyard
 ツイッターのショートクリップきっかけで買ったのが当たりでした。やたら新人扱いの紹介されてたけど王道スタイルで達者だし、数年後にはネトフリのラインナップとか普通に入ってそう。家の庭に不審者現るという事件の導入から統合失調症の母親のエピソードや、自身がundocumentedの移民であることといったヘビーな話題へするすると繋がっていく。でもオフビートでカラッとした語り口の気持ちいい1時間。あと、いわゆるアジア系あるあるネタがかなり少ないのも印象的。
*アメリカのコメディアンです。アジア系あるあるは少ないのですが、英米カルチャーギャップネタはちょこちょこ挟まれてて、その辺のバランス感覚の良さも良かったなぁ。
 
Joz Norris: Blink @Pleasance Dome
 友人のお薦め。元コメディアン現マジシャンのノリスさんが観客の意識をコントロールしかつ観客の考えていることが舞台で現実になる…というテイのショー。なので、キャラ盛り目ですがスタンダップの延長のフォーマットと言っていいと思う。好きなタイプのコメディではあるけどゆるーく残してあるスタンダップの形はなくして、演劇的な構成にかじを切ったらいいのにという気も。しゃべりの勢いとかインタラクティブ多めな感じはとても楽しかった。一か所、ちょっとどうかなと思ったジョークがあったけどこれは私の気にしすぎかも。

 

Kathy and Stella Solve a Murder, by Jon Brittain and Matthew Floyd Jones @Summerhall, Roundabout

 今や飛ぶ鳥を落とす勢いなFrancesca Moody productionの製作なので外れるはずはないわけですが、それでも期待以上の面白さでした。とにかく主役二人が超チャーミング。いい意味でカートゥーンから出てきたようなビビッドなキャラクターが小劇場ミュージカルスタイルにバチバチはまってる。脇を固める3人のアンサンブルも魅力的。Jon Brittainの脚本も良くて、王道鉄板な冒険ミステリーや成長物語のプロットをSNSを小道具に上手くアップデートしてる。キャラクター掘り下げて二時間版みたいなの作んないかしらと思ったな。

 あとこないだのスペースで聞いていた通り、今年の公演時間遅れがち。今日見たものもどれも10分近く遅れてて、kathy and stellaは20分押しでした(22時開演でこれはキツイ…)。一か所綱渡りスケジュール行けるかと思ったけど無理しない方がいいかなぁ。

 

Exodus, play by Uma Nada-Rajah @Traverse Theatre

 良くないです…。トラヴァースだし前評判良かったのに蓋を開けてみれば酷評レビューがぼろぼろと。Timeoutの二つ星レビューがほぼそのまま私の感想と一致でした。それでもこれで爆笑してるお客さん(午前開演で白人の中高年夫婦のお客が多い)結構いて、それもまたうわぁ…ってなる。とにかくサタイアとしてまるで成立してなくて、それが批評性の鈍さだけではなくそもそも演技も演出も劇作も雑なとこに原因があるのが見てられない。何を政治的に批判したいのかはむしろ明確にわかるのですが、逆に言えばその心意気しか良さがないしアイデア自体も洗練されてるとは思えない。

 

Vittorio Angelone: Translations @Monky Barrel

 スタンダップなんですが、4年前NTで上演されたTranslationsにイタリア系アイルランド人としての経験を重ねるという構成で、古典的名作に乗っかるアイデアが面白いです。これ他の戯曲でも使える手法ではないかと思う。でも、別に演劇的な関心が強くて選んだ題材でもなさそうで作品自体を深掘りしないのは個人的には物足りない。あとNT公演の話なのでイングランドの政治的にだめなお客をいじるのは全然いいのだけど、ブライアン・フリールの戯曲って文脈はわりとすっぽ抜けてる感じでそこは結構惜しい気がした。

*コメディに限らず、こういうオートバイオグラフィカルパフォーマンス的な手法のアダプテーションがもっと増えたら面白いのにと改めて今考えてる。物語全体の設定だけじゃなく、特定のキャラクターに全乗っかりするような。

 

*この間にサー・イアン・マッケランのハムレットのチケットを取っていたのですが、バスの遅れを計算しそびれて開演に遅れ、見れず…。しかし翌日、完売のはずのチケットがなぜか全日復活しており、そうなると逆に観に行くモチベーションが下がるというめんどくささを発揮。結局ぐずぐずしてるうちにまたも完売で、今度こそ諦めたのでした。後日、あんまり良くなかったよという感想を聞いて、無理していかなくて良かったなぁと自分を慰める。

 

Frankie Thompson: Catts @Pleasance Courtyard

 ミュージカルキャッツのナンバーを歌うはずが再生されるのは猫繋がりというだけでサンプリングされたインタビューやらテレビ番組やらの音声で、それをいちいちリップシンクでパフォームしてみせる?説明難しいな笑。別にロジックないし無茶苦茶さを笑う感じなんだけどそのナンセンスを生み出すセンスがすごく良くて夢中にさせられる。こういうコメディとシアタージャンルの間にはまるような作品ってフリンジならではです。今回がフリンジデビューの超若手のようだったけど、次の作品も見たい。

 

Sam Campbell: Comedy Show @Monky Barrel

 イナムラさんのブログ読んで、そうやって楽しめばいいのかと。まさに英語圏若者SNS文化のレファレンスがネックなんだろうなと思っていたので。彼のしゃべりの魅力というか目が合わないけどまくし立てられる感じの勢いって小ネタでちょいちょいつまずくと味わいきれないのかもしれないです。もちろん全体通してめっちゃ面白かったし悪趣味なユーモアは好み。あとほんとに久々に深夜帯のコメディ観に行けて熱気を感じられたのも良かった。ハムレット見損ねの傷も癒えました笑

 若者SNS文化がネックなんだろうな、ってのはわかってない私の弱点って意味なのでもちろん他のお客さんにはバチバチに受けてます。自分がターゲットに入ってないかもってことは全然悪く思わないけど、完全に可愛い動物を愛でるのにパーソナライズされた自分のTikTokのフォローもいじれない。

*今年のコメディアワードを受賞しました!そしてイナムラさんのブログとはこちら。

Go Johnny Go Go Go Part II: Edinburgh Fringe 2022 エディンバラフリンジ2022 開催前から脅威のPR展開で話題騒然。すでにモントリオール・コメディ・フェスティバルで笑いすぎて口から器官がでそうになったと絶賛する芸人多数。Sam Campbell:Comedy Show 観ました。

 

We were promised Honey!, creted by YESYESNONO @Sumemrhall, Roundabout

 各紙レビューの評判に違わずとても良かった。ティム・クラウチが好きならきっとハマる(ビジュアルも結構似てるw)。未来のことを(確実にバッドエンドが待っているとわかっていても)物語り続ける、というシンプルな構成で、パフォーマンスの時間のコントロールや観客とのインタラクションの上手さが作品の強度を生み出してる。あと未来に対する想像力ってコロナ禍で確実に欠けてたなぁと思って、物語ることに対するオプティミスティックな感じが個人的に涙腺に来てしまった(作品自体はコロナ関係ないです)。

*午前10時開演の公演だったことを上手く作品に取り入れていたのも良かったです。今日一日のこれからのことを考える時間でもあったというか。

 

One of two, a play and performed by Jack Hunter, directed by Robert Softly Gale, in association with Birds of Paradice

 脳性まひで車椅子で生活する双子の妹について語る、自身も脳性まひの障害を持つ青年のオートバイオグラフィ的一人芝居。birds of paradiseの製作です。作、出演のジャック・ハンターさんはこれが作家デビュー作らしく、荒削りではあるものの怒りとメッセージがはっきり込められていてこの声を世に届けなければという意思を強く感じる上演。面白かったです。あとロバート・ソフトリー・ゲイルさんの演出作をこれで3本ぐらい観てるんですが全部スタイルが違うのすごい。

・ソフトリー・ゲイルさんの演出、オンラインのものを含めると5作観てましたわ私。今イギリスで絶対作品チェックする演出家の一人です。

 
Every Word Was Once an Animal, created by Ontroerend Goed @Zoo Southside
 演劇を構成する要素一つ一つを分解するようにメタシアター的に今舞台で起こっていることをパフォーマーが観客に語りかけていく。4月に公演中止になった作品を今から始める、というほぼ唯一の設定が効いていて、実験的な構成ながらとっつきやすいです。ただ、1時間ずっと同じ調子なのでやっぱ後半飽きてくる。ドラマチックな展開を期待してるわけじゃないけど、もうちょいドライブするものが(でかい音とかでもいいので)欲しいなーと思った。
Ontroerend Goed, 観るたびに「なんだかなー」と思って帰ってくるのでもう見るのやめたらいいのにと我ながら思います。クオリティはとても高いと思うのですが、テーマに対する(演劇的手法ではなく)思想的なアプローチが合わないんですよね。今回はまだテーマ性で見せるタイプの作品ではなかったものの。
 
Learning to fly, created by James Rowland @Summerhall
 Rawlandさんの一人芝居見るのはこれが2作目ですが物語の強度は前回の方が高かった。今回はどの登場人物のどのエピソードに焦点を当てたいのかがぼやけていた感じ。技術的には達者だし愛嬌もあるので、脚本の問題かなと思いました。
 
Feeling Afraid as If Something Terrible Is Going to Happen, play by Marcelo Dos Santos, performed by Samuel Barnett, directed by Matthew Xia @Summerhall, Roundabout
 ばんばかヒット作をだすFrancesca Moodyのプロダクション。で評判的にはSamuel Barnettの一人芝居で売れていたかも。脚本はコンプリシテのMarcelo Dos Santos。なんで外すわけがないというか。話自体はゲイのスタンダップコメディアンのロマンスで割と普通ですが、スタンダップのフォーマットをなぞる/パロディして語るのが面白い。今年は一人芝居がすごく多くて(たぶんコロナの影響もあると思う)、その中でも語り方自体を実験するものが目立つ気がするのですがメタシアターあるいは劇中劇的な効果を狙う意味でこのスタイルは上手いなぁと思いました。
*このスタンダップ一人芝居問題(?)、後日スペースやった時にイナムラさんにお尋ねしました。個人的に見落としてたのは、コロナ禍のライブアート支援の時にコメディカテゴリが当初助成から外されていたという話。スタンダップの手法を「発明」のように演劇ジャンルが扱うのって結構厚かましいのではと思い至り、コメディを演劇の側面ばかりで語ってしまいがちなのをちょっと反省しました。もちろん表現のレベルのことは互いに手法を盗みあったり混ざりあったりすべきと思いますが、エンタメ、サブカルチャーの新興ジャンルや業界規模の小さなジャンルは支援から漏れがちなことと表裏で考えないとなと。
 
Jordan Brookes: THis Is Just What @Monky Barrel
 彼のスタイル好みなんです。スタンダップなんですが、いつも一枚演劇的なレイヤーが入ると言うか、ステージでのふるまいを彼の「素」としてストレートに受け取らせない、ちょっとしたフィクション的な部分で遊ぶのがすごく面白い。演劇畑の人にも見てほしいコメディアンです。序盤にお客の名前や職業を聞いてくいじりがあるんですが、私の前の席のおじさんがポルノグラフィのプロデューサーで、観客もブルックスの関心もがっつりその人へ笑。この後エロ下ネタが続くのでなんというか当たり回でした。
 言い例えじゃないかもだけど、チュートリアルがM-1とった時の漫才の感じに似てる気がしてて。どう考えても言動が変なんだけど、でも紛れもなくその人当人でもあるというフィクションとか役の作り方。
*スタンダップコメディって(新作)落語になぞらえられることが多い気がするのですが(少なくとも一昔前は。最近だと漫談って言ったりしますかね?)、コメディアン/芸人の舞台上の「素」のキャラクターをめぐる表現とかテクニック的には漫才の方が近いと思うんですよね。
 
Stewart Lee: Snowflake @The Stand, New Town Theatre
 面白かったのですがちょっと感想書くのに困ると言うか、今回メインのネタがいわゆる「(カッコつきの)ポリコレ」の話だったんです。で、そこに対するフラストレーションは理解できるし同意する部分も多いのだけど、笑っていいのかちょっと立ち止まっちゃうみたいな部分もあって。なぜそう思うのかを書くにはツイートでは足りないし、今のツイッターを私はそこまで信用出来てないので、ぼんやりした内容に留めます。
*このショー、9月のテレビ放送版もみたのですが、その時には「あれ?」と思ったジョークがなかったので、私の観た回の問題かもです。というかそこ以外はもちろんちゃんと面白かったので、これは私がちょっと運がなかったのかなと思います。
 
Victoria Melody: Head Set @Pleasance Courtyard
 特定の職業やコミュニティの人々のリサーチをベースに彼らの振る舞いをパフォームするエスノグラフィー的な作品を作ってる人なのだそうです。現代アートの方が近いのかしら。で、彼女が今回選んだテーマがスタンダップコメディアン。会場も若手コメディアンの登竜門のプレザンス。スタンダップのフォーマットをパロディしながらスタンダップのスキルを磨く経緯が語られる。のですが。上達しないのは自分の発話に問題があるのではと病院に行ったらADHDの診断を受けてしまうところから意外なところへ話が展開します。その脱線具合がすごく面白くってそのままラストまで行っちゃうんだけど、観終わってふと、そもそものプロジェクトはどういう方向で考えてたのかなと思いました。思っても見ない方向へ転がる面白さは当然あるとして、でも意外性の部分をちょっと強く感じてしまったんですよね。
*ADHDの診断や治療に使う脳波を計る機械を身に着けて、それを活かしたネタをするようになり、それが医学関係者にも注目され大学でショーをするようになり、という予想外のヒットの方向へ転がります。面白いんですけど、スタンダップという職業とかジャンルに対してのアプローチは薄れていったような。
 
Medea, adapted by Liz Lochhead, directed by Michael Boyd @The Hub (Edinburgh International Festival)
 めちゃくちゃ良かった。当日券で行ったやつが言うことじゃないですがソールドアウ トになってないのがおかしいくらい。各紙絶賛のレビューも納得です。
 翻案としてはとてもシンプル。最近多い舞台設定を現代に置き換える上演とは対照的です。でも登場人物やコーラスの言葉はきちんと現代の眼差しで再解釈してる。戯曲は新作なのかと思っていたら2000年初演でした。びっくり。主演の役者さんが素晴らしくて上手いだけじゃなくメディアという役にがっちりはまってる感じ。子殺しに至るある意味理不尽な物語にも、このメディアなら仕方がないと思わせる説得力。
 以前見たサイモン・ストーン演出の『メディア』は、ラストを一家心中に変えてたんです。意図はわかるんだけどいい解釈ではないなぁと思っていたので、プロットをそのままにした翻案で良い解釈のものが観れたことも満足でした。
 
The Last Return, play by Sonya Kelly, directed by Sara Joyce, produced by Druid @Traverse Theatre
 ドタバタコメディとしてもチープ過ぎるし、唐突に入ってくる難民の話もアクセント以上のものにはなってない。Exodusと似たタイプのダメさで(まだ全体のクオリティはマシだけど)、トラヴァースの中の人の選定基準がだめな方向へ変わってしまったのではと不安です…。
 あとバーの食事メニューが謎ジャパニーズフードにガラッと変わっている…。次の芝居までの間で夕飯食べなきゃで試しにお好み焼きを頼みましたが、似せる気さえないソース味パンケーキが出てきました。肉もキャベツもなし、なんかフワフワしてる…。メシマズの劇場はあかんぞ。
*今年のトラヴァースは本当にどうしてしまったのでしょう…。いや、ベタコメディ系があるのは別にいいんですけど、プログラムに複数このタイプの作品が並ぶってことは今までなかった気が。あと、レストランのキッチンの変更はショック過ぎました。トラヴァースでハギスを食べるのをめちゃくちゃ楽しみにしてたんですよ…。
この作品はGalway International Arts Festivalの演目でもあったので、わりと期待もしてたのですが。残念。
 
This is not a show about Hong Kong, created by Max Percy and Friends @Underbelly Cowgate
 アクティヴィズムとしての作品と言っていいと思います。今の香港の現状がそうなのだと思うのだけど、真綿で首を締めるように日常が侵食されていく様をフィジカルシアターとして表現している。彼らの政治的メッセージも、もちろんその意味は観客には明らかだけど、表現としてはあからさまにはされない。技術的に惜しい部分はあれど、テーマと手法とメッセージがしっかりと結びついた良作でした。
 
(Le) Pain, created by Jean-Daniel Brousse @Aeembly Roxy
 フランスの田舎の村のパン屋の息子でゲイのダンサーが父親の引退で代々続く家業が廃業になるという話を語りながらパンを焼きます。これが上手い構成で、わりと保守的なクリスチャンの家庭であることや、イエスも家業を継がずにメシアになったことがパンと絡んでたり、両親のインタビュークリップや地元の村のフォークロア、そしてダンスシーンがあり、ずっと面白いです。もちろんパン作りの過程も良い。料理と舞台と家父長制って相性いいですよね。あと、個人的に好きだったのは、感情の割り切れなさをそのまま見せてるところ。すごく悲劇的な出来事ってわけでもないし、家を継がなかった選択を悔いるわけでもないけど、微妙に苦い何かが喉の奥に残ってるみたいなもやもやに無理に結論を出さないというか。
 
Mark Silcox: I can Cure...[Perfect and Arena-Ready Show] @Monky Barrel
 ぽんと時間が空いたところで何か観れないかと探していたところイナムラさんが感想あげてらしたのを思い出し飛び込みで。変だったー笑。シルコックス博士におもむろにふるまってくれるひよこ豆とかゆで卵とかをいただきつつ博士によるタンパク質だのブッダだののレクチャーを伺う不思議な会。ナンセンスに過ぎてく時間が楽しめるかどうかは好みだと思いますが私は好き(出てった人もいた)。この感じ、ずいぶん前に見た悪魔のしるしをちょっと思い出したけどまぁ私の勘違いかもしれません。
 
Tim Crouch: Truth's A Dog Must to Kennel @The Lyceum Studio
 面白かったんですけどクラウチの作品としてはベストではないかも?とも思ったり。彼のユニークさって舞台上の表象の限界をドラマの手法を通してクリティカルに問うところだと思っているのですが、今回は劇的な世界から割と離れてしまったというか理屈っぽいことしゃべってあっさり手の内をばらす的な感じがあったんです。あとここでもスタンダップ的な一人語りの演出があるのだけど、私はもっとゴリゴリのドラマチックなクラウチ節のモノローグが聞きたかったなぁとか。もちろん悪い作品ではないです。期待しすぎたのかもしれませんが。
 

40/40, created by Two Destination Language @Zoo Southside

 今年40歳になるというパフォーマーが自分の来し方を語りながら踊るんですが、それがほんと素敵なんです。ニコニコしててチャーミングでずっと楽しそう。シンプルであまり言うこともないんですけど、こういう良質な小品ってフリンジみたいな場所でないとなかなか見れないので良かったです。

 信頼と実績のリン・ガードナー先生がめちゃくちゃ薦めてたんですがその推薦通りでした。今回レビューの数が少なくて、ガードナーとアンジェイ・ルコウスキーの評価を追ってくような見方になっちゃいましたね。
*レビューに関してはほんと今回こんな感じで、特に大手紙は特定の作品にレビューが集中する感じもありました。観客も含め、観る候補に入れる作品が固まっていたのではという気がします。

 

The Strange Undoing of Prudencia Hart, created by David Greig and Wils Wilson

 ディヴィッド・グレッグの2011年の戯曲(再演ですが、グレッグ自身も今回の公演に共同製作で関わってます)。エジンバラ大学の図書館の一角を晩餐会のような会場に仕立てての上演。スコットランドのボーダーバラッドを研究する若手研究者が学会帰りに大雪に巻き込まれてパブにたどり着くと…というあらすじなのですがその物語自体がフォークロアの定型をなぞっているような現代のおとぎ話という風情。後半ちょっと失速する感じはあるんですが、フェスティバルにふさわしい祝祭的な空気に満ちて終わる良い作品でした。この雰囲気は数年前のMidsummerでも似た感想を思った記憶。

 
A Little Life, based on the novel by Hanya Yanagihara, directed by Ivo van Hove @Festival Theatre (Edinburgh International Festival) 
 EIFのレジデンスカンパニーとしてITAが選ばれて今回2作品出してるんですがそのうちの一つでこちらはイヴォ・ヴァン・ホーヴェの演出。ハニヤ・ヤナギハラのベストセラー長編小説の舞台化です。原作小説が描く凄惨な性的虐待や暴力、救済の全くない主人公の人生を、その衝撃を減じることなく演劇作品として表現しようとしていて、原作未読だけどもおそらくそれは成功していたのだろうと言う気がします。ヴァン・ホーヴェが新たに加えた解釈を観る演出とではなくある意味で「忠実に」舞台化をしている。私はこれまで彼の演出は古典の上演で良く観ていたので、より違いを感じたのかも。 全体としてとてもレベルが高い作品。4時間強の上演時間もそれだけの時間が必要だと思える(原作も700ページ越えだそう)。カタストロフィってこういう作品に使うのだなぁと思う。
 テーマ的に誰にでもおすすめできるわけじゃないし、また観たいかというと当分はしんどいと思うんですが、これからもっと公演が増えていけばいいなと思う。
*イヴォさんは大陸ヨーロッパの演出家の中でも比較的戯曲をいじらない演出家と言うか、自分の解釈と戯曲との線引きがはっきりしているような気がします。「忠実に」と感想で書いてますが、要は「私はこの作品をこう読みました」という提示の仕方がスマートという意味で、「この作品の意味はこう!」みたいな戯曲と一体化しちゃう感じがしないのがイギリスのお客さんにも受けるのかなーと。
 
Mark Thomas: Black and White @The Stand Comedy Club
 トーリー支持の人にはふさわしくありません(でもお金は返せません)としっかり冒頭かましてから今の党首選、コロナ禍の政策、cost of livingの問題、移民政策とたまりにたまっていた保守党への怒りをぶちまける一時間。爽快。実は去年の冬にバーミンガムに来てたのを見てて(タイトルは別)それがあんま良くなくてちょっとだけ心配だったのですが、杞憂でした。 あと先週イギリスは鉄道ストライキがあったんですが、いやーわくわくするね!とマークさんがニコニコ話してて、めんどくせと思ってたの反省しました…。
 
Megalith, created by Mechanimal @Zoo Southside
 すごく期待してるカンパニーなんですが今回はダメでした。ワークインプログレスみたいな出来でそもそも評価以前の問題のような。製作トラブルでもあったのかしら…。採掘の歴史とデジタルパフォーマンスという良さげなアイデアの組み合わせで実際おっと思うシーンもいくつかあっただけに残念。
*次回作に期待してます。前回のフリンジ参加作品ほんと良かったので。