A Very Very Very Dark Matter by Martin McDonagh at the Bridge Theatre

観劇日:11月3日19時45分(90分、休憩なし)

演出:Matthew Dunster

 

 ブリッジシアター年間プログラム発表から楽しみに待っていたマクドナーの新作はいざ開幕してみれば賛否両論の嵐吹き荒れるレビューの数々*1。昨年公開の映画『スリービルボード』から期待値が高まりすぎたゆえか、本当にダメな出来だったのか、評判の真相は…といざ鑑賞してみれば、

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みたいになる作品でした。

 著名な童話作家アンデルセンには実はゴーストライターがおり、それはコンゴからさらわれてきた黒人奴隷の少女で、アンデルセンはペットのように彼女を箱に閉じ込めて作品を書かせ続けていた、というのが冒頭のつかみ。えぇっと、道徳倫理的にどうなのこれ…、いくらアンデルセンがクズ人間として描かれているとはいえちょっと笑えねぇよこのジョーク、と冷汗だらだらの展開と台詞が連なるパート1。休憩が入ってたら本気で帰ることを考えたのですが、パート2に入るとまさかの宇宙猫展開へ。

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 未来からやってきて自由を説くジプシー、(舞台設定の年代から)十数年先に起こるコンゴ紛争での戦いに赴く少女、それを阻止しにベルギーからやってくる二人組の(見た目が)赤い殺し屋。ジプシーに託されたマシンガンを担ぎ、故郷を救うべくドアからタイムスリップする少女と、それを見送るアンデルセン。

 何を言ってるかわからねーと思うが…。

 前半の政治的にも倫理的にもダメな要素を、筋立てもろとも隕石が破壊した後半部、そしてそれが妙なカタストロフィになってしまう、という、なんとも困った作品。PC的にダメだという場合、普通その価値観が作中ある程度一貫して見出されるものだと思うのですが、おそらく意図的にそうした一貫性や論理性をぶち壊しにかかっているので、「タブー破り」を試みた表現かどうか、いまいち判断がつかないのが正直なところ*2。とはいえ、神経に触る表現ではあるので、前半部の不快感も強く印象付けられる。

 クズな人間のクズな言動のオンパレードにもかかわらず、不思議とふと胸のすく瞬間がある、という意味では、しっかりマクドナー作品ではあるのだと思う。いくつかのシーンは、まさにマクドナーだというユーモアと緊張感があって、彼の筆であることに疑いようはない。ただ今回は、その「不思議」がすこしふしぎどころではなかったというべきか。

 それでも、非常にテンポが悪いのは確か。近作であるHangmenと比べても、あるいは多くの人は『スリービルボード』とも比べただろうが、それらに比べて明らかに質は悪い。アンデルセンが童話作家であるところから、ナレーターによって語られる物語の体裁に意識的であるにもかかわらず、全体をドライブする要素がほぼないので、登場人物がだらだらとしゃべる、と言う印象がどうしても強い。片手間に書いたように思われても仕方がない出来だとは思う。

 マクドナーファンは日本にも多いので、いずれ翻訳上演があるのかなとは思うけれども、とても人を選ぶというのか、ファンのための公演になるのではと思う。もちろんいかなる評価を受けようとも、公演自体はやるべきですが。

*1:それをまとめたThe Stageの記事はこちら。

Martin McDonagh's A Very Very Very Dark Matter | review round-up

*2:この作品に政治的に否を突き付ける評価はそれはそれで真っ当だと個人的には思います。ただ、私はPCに関わる表現は原則的に文脈に依ると考えているので、ここまで激しく文脈自体が混乱させられてしまうと、批判のポイントとしてはいったん留保を置きます。ちなみに、「タブーを壊す」という意図がはっきり見えていたら、私の評価は単なる悪趣味で終わってたでしょう。