Showtime from the Frontline by Mark Thomas at mac

 観劇日:2018年3月2日20時

 

 マーク・トーマスが2014年にパレスチナ、ジェニンの難民キャンプ内の劇場で行ったスタンダップコメディのワークショップが今作の軸。表現活動に対して厳しい統制が敷かれる状況下、囚人たちによるハンガーストライキとその支援デモの最中に「コメディなんて」と白い目で見られつつ、ワークショップの締めくくりに生徒たちの作品発表の場としてコメディクラブ*1を開催するまで、をトーマスが語る。これと並行して、ワークショップでの教え子であるFaisal Abu Alhayjaa と Alaa Shehadaがパフォーマーとして加わり、舞台経験もバックグラウンドもバラバラな生徒たちとのワークショップ風景、トーマスと現地の人々それぞれの視点で語られるパレスチナの現状(と両者のずれ)がスキットやスタンダップの形をとって語られていく。

 これ笑っていいの…?というラインを狙うのが政治ネタの理想だと思うのですが、いやこれ笑えないでしょ、というエピソードは少なからずあり、それでも三人のデリバリースキルは素晴らしくて、深刻になり過ぎずでもむやみに明るすぎずという緊張感の中それらのジョークにも笑ってしまった。*2観劇中ふと思い浮かんだのは、去年観たThe Jungle(もちろん設定される状況は違うものの)。どうしようもなく凄惨な出来事でかつ自分には知りようのないことに、どうすれば舞台を通じてアクセスできるのだろうと考えた時に、The Jungleがある種イマーシブな形をとったのだとすれば、今作はコメディという形式を通じて観客にエピソードと距離を取らせ、我が事にさせない方向に仕向けている。とはいえ、やっぱりしんみりしたり泣けてしまう場面はあって、無事開催されたコメディクラブの様子を語るラストでは、映像で実際の生徒たちのスタンダップの一部を流し、FaisaiとAlaaは実際に自分の持ちネタをやる。ネタに笑いつつ、その様子はやっぱり胸に来る。同情からくるものではないと思う。

 この日は電車が止まるほどの寒波と豪雪で*3、バーミンガム市街地の劇場はみな公演キャンセルという中、かなり強引な上演決行。実際、三分の一以上のお客さんが来れないという状況だった。トーマス自身がこの件については上演前もツイッターでも説明をしていて、作中にも語られるのだが、大きな理由はパレスチナからのイギリス興行ビザがものすごく複雑で追加公演等の日程変更が出来ないこと。実際に彼らのパフォーマンスを観れば、ここまできて舞台をやれないってのはないよなぁ、とショーマストゴーオンの精神を思い知る。

 国連職員(だったかな?)らと車で移動中、些細な事でイスラエルの警察官の尋問にあい、その物々しい態度に思わず笑ったら相手がとても苛立った、というエピソードを、近年の政治風刺にまつわる様々な事件を交えつつ、トーマスが語る。権力は笑いを嫌がる、だからコメディをやる意味があるのだ、と語る彼はとてもかっこよくて、私がコメディやお笑いを好きな理由もそこだよ、と思いました。

 

 

*1:現在もワークショップ参加者有志によって継続して開催されているそうです。

*2:たぶんアドリブパートじゃないかと思うんですが、態度と行動をあべこべに組み合わせるという練習の時に、トーマスさんが「すっごくシャイなイスラエルの警官がパレスチナの人を逮捕するところ」というお題を出し、Faisaiさんが難なくそれに応えてしかも笑いを取った時に一番ぎょっとしました。でも私も笑いました。

*3:私はバス移動だったのでセーフ(バスは想像以上に今回丈夫だった)。でも、帰りの劇場からバス停までの人気のなさと車の少なさに、ここで倒れたらまず助けこないな…とふとよぎりました。