This House by James Graham at Birmingham Rep

観劇日:2018年4月20日

演出:Nica Burns

 

 2012年のナショナルシアター製作作品のUKツアー版。バーミンガムのリージョナルシアターでの公演に行ってきました。脚本のジェームス・グレアムはLabour of Loveで今年のオリヴィエ賞新作コメディ賞を受賞してます*1

 1974年の労働党政権獲得から、1979年の内閣不信任案可決(そして保守党サッチャー政権樹立へ)までのウィルソン政権→(EC残留)辞任→キャラハン政権下の不安定な政局を、国会議事堂ワンシチュエーションで描く。この期間、労働党は与党でありながらも議席が単独過半数に届かず、国会はいわゆるハングパーリアメントの状態にあり、野党第一党の保守党とは文字通り一票の奪い合い。他方でスコットランド、アイルランドの情勢が切迫する中、少数政党の議員とも際どい交渉を重ねていく。79年の不信任案可決は一票差で決まるのだが、この時労働党の議員であるWalter Harrisonが病に倒れ棄権しており*2、国会解散後に彼が投票結果を知るところで幕。

 出てくる政治家はだいたいモデルがいるようなのだけど、私はわからず…。作品全体は群像劇として描かれているので、わからないなりに面白く観れるものの、英国政治に詳しい人とか70年代リアルタイムで過ごした人にとっては、また別の楽しみ方があるのかなと思う。(ちなみに、私でもすぐ顔が浮かぶほどの有名な政治家は、名前は言及されても登場人物としては舞台には出てこない。)政治もの、と言ってももろに国会を舞台とした作品はあまり類似するものが思い浮かばず(日本の作品でもイギリスの作品でも)、なんというか、ありそうでなかったなという印象。とはいえ、30数年経ってからようやくドラマとして描けるテーマのようにも思え、いいタイミングで上手い題材を見つけてきたということなのかもしれない。*3 キャラハン政権へ移行する中盤以降は作品のドライブがかかってきて、政治劇というよりはむしろ密室交渉サスペンス的な質の良いエンターテイメントとして面白い。

 ウェストエンドで製作された作品のUKツアーというのを今回初めて観たのだけど、クレジットを確認するに、演出、技術面の変更はなく、キャストが大幅変更の様子。正直に言えば、スター俳優のキャスティングが望めないことを差し引いたとしても、アンサンブル含め役者のレベルは一段(人によっては数段…)下がっているように思う。リージョナルシアターへのツアー公演ってNT Liveとの兼ね合いが一時期割と問題視されていたのでクオリティが気になっていたのだけど、議論になる理由はよくわかった。(むしろ最近はあまりこの種の議論はみない気がするのだけど、興行収入とかのデータを探したいところ。)ただ、今作のジェームズ・グレアム自身は、ロンドン偏重の今の演劇シーンには批判的で、積極的に地方劇場へ新作を書き下ろしている人でもあり、この辺のバランスがどうなっていくのかなというのは今後も気になるところである。

*1:ベストプレイ賞の候補にはInkが入るという二部門ノミネートで、現在はQuizがウェストエンドで上演中という、当面ロンドンの劇場で彼の名前を見ない日はないんじゃないかという、今たいへん乗りに乗っている感じのひとです。

*2:実在の人物が同名のままモデルとなっており、彼の一票で政局が変わったとされるのも史実通り。ちなみに病気による棄権については、国会議員の全体的な高齢化が中盤に示唆されている。

*3:日本でやるとすれば09-12年の民主党政権だと思うんですよ、これ。震災も含めて。30年後に期待しますが。